青い羽根を探して
第五章
「…ミルクさん?」
マザーズ・ヒル中腹の、崖の下にクリフは横たわっていた。
もう夕暮れが近付いているようで、辺りはうっすらと赤く染まり始めている。
クリフが目を開けたのに気付くと、ミルクは、心配そうにクリフの顔を覗き込んだ。
「良かった、気が付いたのね。大丈夫? 怪我はない?」
ミルクにそう尋ねられ、クリフは崖から落ちたことを思い出す。
だが、その割には、あざ一つなく、痛む所もない。
(夢じゃなく、本当に女神様に会えたみたいだ)
「…うん、大丈夫みたい。」
にっこり笑ってクリフが言うと、ミルクは、ほーっと大きく息を吐いた。
「良かったぁ…。もう、心配させないで! 倒れてるクリフ君を見付けたとき、本当にびっくりしたんだからね?」
「ごめんね、ミルクさん。…また、ミルクさんに助けて貰ったね」
そう言いながら、クリフは上体を起こそうとして、右手がずっと拳を握っていることに気付いた。
不思議に思いながら、少し強張っている右手をそっと開き、クリフは息を呑むほど驚いた。
「!」
「どうしたの?」
そう言って、クリフの右手へと視線を移したミルクも、また驚いて声を上げた。
「クリフ君、これ!」
「青い羽だ…」
掴めなかったと思っていた青い羽根が、今、クリフの右手に載っていた。
「やっと手に入れた…!」
羽根を空に掲げ、クリフは歓喜の声を上げた。
「やった! 女神様、ありがとう!!」
嬉しそうなクリフを、ミルクは複雑な表情で見つめる。
「…もしかして、青い羽根を探すために、ずっとマザーズ・ヒルに来ていたの?」
恐る恐る尋ねるミルクに、クリフは笑顔で頷いた。
「うん、実は、そうなんだ」
(雑貨屋に売ってるのに…)
とは口に出さず、ミルクは小さく笑い、「クリフ君らしいや」と呟いた。
クリフの手の中の羽根は、雑貨屋で売っている物よりはずっと小さかったが、その代わり、ずっと濃く、深い青色をしている。
(一体、それを誰にあげるの?)
とは聞けず、ミルクは膝を抱え、ためらいがちに口を開いた。
「…それを貰う人は、世界一の幸せ者だね」
小さな声は、少し悲しげな響きを伴う。
「え?」
クリフが聞き返すと、ミルクは、クリフから目をそらして続けた。
「そんな綺麗な羽根、見たことないわ。クリフ君がずっと、その羽根のために頑張ってたことも知ってる。
だから、きっと、プロポーズはうまく行くよ」
「…そうかなぁ。それは、まだ解らないよ。受け取って貰えないかもしれない」
クリフは、すっと真剣な表情になり、ミルクの顔を見つめる。
ミルクは小さく笑い、首を振った。
「大丈夫よ。絶対、受け取って貰える」
「本当にそう思う?」
「勿論。だから…頑張ってね」
にじんで来た涙を隠すように瞬きを繰り返し、ミルクは無理やり微笑む。
じゃあ、とクリフはミルクの右手を取り、そっと青い羽根を載せた。
「受け取ってくれる?」
「…え?」
何が起きたか解らず、ミルクは、自分の右手とクリフの顔を交互に見つめ、間抜けな声を上げた。
クリフは、そんなミルクの手を、羽根の上から両手で包み、言った。
「好きです、ミルクさん。
後ろしか見ていなかった僕に、前を見ることを教え、さらに、前を照らす光をくれた。
もしできるなら、僕も君を照らす光になりたいんだ。二人で、ずっと一緒に生きて行きたい。
…僕と、結婚して下さい」
ミルクは、しばし呆然としていたが、やがて、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「あ、突然、ごめんね。えっと、その、困らせるつもりじゃ…」
慌てるクリフに、ううん、と首を振り、ミルクは泣きながらにっこり笑う。
「ありがとう。嬉しい。…私も、クリフ君と、そうなれたら良いなぁって思ってたから」
その言葉を聞くと、クリフは、顔を真っ赤にし、尋ねた。
「じゃあ、この青い羽根、受け取ってくれますか?」
「…はい」
ミルクは頷くと、手を離したクリフから青い羽根を受け取り、大切そうにそっと握り締めた。
――うふふ、おめでとう。青春って良いわねぇ。
クリフの耳に、からかうような女神の声が聞こえた気がした。
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