「ハッピー・スクール・フェスティバル」 V
能登さんに会えないまま、手芸部のファッションショーが始まった。
定番の結婚式ソングが流れる中、ウェディングドレスの女の子達が、舞台に出て行く。
最初は、新郎役のいない、単独で出る子達。舞台の左右から一人ずつ出て行って、ゆっくりと舞台を周ってから戻って来る。
どの子も緊張しているようだけど、沢山の拍手を貰って舞台袖に戻って来るときは、皆誇らしそうな、満足した顔をしている。
音楽がポップスからクラシックに変わり、いよいよ第二部――新郎役の出る、二人一組のショーだ。
能登さんとオラの出番が近付くにつれ、緊張がどんどん高まる。
舞台袖からはあまり見えないけど、拍手の大きさからして、客席にはかなりの人がいるようだった。
「大丈夫。落ち着きな。能登には、ちゃんと西本が伝えてるし。前の子達と同じように、ゆっくりと舞台を一周して、
能登の横に立って、ベールを上げるだけ。後は、能登と一緒にもう一度舞台を一周。それだけだよ」
あまりに緊張しているオラを見かねてか、藤堂さんが優しい口調でもう一度説明してくれた。
大丈夫、と自分で自分に言い聞かせる。
これはファッションショー。能登さんの作った、このステキな衣装をお客さんに見せるのが目的だ。
だから、見られるのは、オラじゃなくてこの新郎の服。
能登さんの相手役、なんて大層なもんじゃない。あくまで、体型が似ていたから選ばれた、藤堂さんの代役だ。
* * *
前の出番の子達が、二人で最後の一周を歩き終え、こっちに退場して来た。
もうすぐ、能登さんが舞台に登場する。それに続けて、オラも。
思わず体が固くなる。
咄嗟に、胸元のイルカの刺繍に手をやると、隣の藤堂さんが、オラだけに聞こえるような声で囁いた。
「そう言えば、その、イルカの刺繍とコサージュ。『アタシのイメージじゃない』って言ったのに、能登が、絶対譲らなかったんだよね」
「えっ?」
「その花婿衣装、本当は、アタシじゃない誰かをイメージして作ったんじゃないかな。……さ、能登の出番だ」
藤堂さんに舞台を指差され、慌ててそっちを向く。
反対側の舞台袖から、白いドレス姿の能登さんが現れた。
大きな拍手の中、能登さんが、ゆっくりと舞台に出て行く。
「美咲ー!」
「能登さーん!」
客席のあちこちから、男女問わず上がる歓声。
ベールで覆われているため、表情はわからないけど、白い手袋をした手を軽く振る様子から、いつものように、優しい笑顔をしているんだと思う。
初めて見る、能登さんのウェディングドレス姿。
オラのタキシードと同じく、所々に水色の刺繍やリボンの飾りが入っていて、スカート部分には、波を思わせるレースが付いている。
彼女にピッタリの、正に『海辺の結婚式』といったドレスだ。
こんな綺麗な花嫁さんは見たことがない。きっと、これからも見れないだろう。
緊張も忘れ、能登さんに見とれているうちに、能登さんがステージを周り終え、舞台の後ろに下がった。
ハッと我に返るのと、藤堂さんに軽く肩を叩かれるのが同時だった。
もう一度イルカの刺繍に手を当て、深呼吸してから、舞台に向かって歩き出す。
ふわふわした気持ちで、ただ転ばないことだけを願いながら、何とか舞台を一周する。
「えぇっ、古森君!?」といった声が聞こえた気もするけど、よくわからない。
客席を見る余裕も、客席からの声に耳を傾ける余裕もなかったから。
無事、転ばずに能登さんの横に立てた時は、本当にほっとした。
オラの方を向いた能登さんのベールを、そっと上げ、後ろに垂らす。
能登さんは、少し照れたような笑みを浮かべると、オラの手をそっと握った。
そのあまりの可愛さに、鼓動はいよいよ早くなり、顔はカァッと熱くなる。
こんな最高に綺麗な能登さんの隣に、自分がいられるなんて、信じられない。
手を繋いだまま、今度は二人で舞台を一周。
そして、舞台の左側に退場。
夢でも見てるようで、どう歩いたのかも記憶にない。
ただ、繋いだ右手が凄く熱かったのだけは覚えている。
* * *
「あぁ、でも、本当びっくりした〜」
ショーを終え、手芸部の控え室に戻って一息吐くと、能登さんはオラに向かって言った。
「タッちゃんが出れなくなって、代役立てた、とは聞いたけど、それが古森君だなんて、聞いてなかったもの。
舞台袖から古森君が出て来たときは、思わず大声出しそうになっちゃった」
「えっ。西本さんから、聞いてなかったの?」
驚いて尋ねると、能登さんはううん、と首を振る。
「はるひったら、教えてくれないんだもの。見てのお楽しみやーって」
「そうなんだ……」
「本当にありがとう、古森君。人前に出るの、好きじゃないよね? それなのに、ファッションショーの代役なんて頼んじゃって、ごめんね」
ぺこりと頭を下げる能登さんに、慌てて首を振る。
「こしたの、なんでもね。その、の、能登さんのためなら……」
「えっ?」
「いや、あの、能登さんこそ、オラなんかが新郎役で、嫌じゃなかった?」
「そんな訳ないよ! それどころか、古森君で嬉しかった」
真剣な顔でそんなことを言われ、ドキッとする。
「ほ、本当に?」
「うん。タッちゃんが怪我して出れなくなったのは、勿論残念だけど。古森君と一緒に舞台に立てるなんて、
思ってもいなかったから、嬉しかったよ。ありがとう」
「お、オラも……」
オラも、能登さんと一緒に舞台に立てて、嬉しかった。……そう言おうと思ったけど、上手く言葉が出て来ない。
「あ、あの……」
「うん?」
「の、能登さんも、イルカ好きなの?」
結局、全然違うことを口走ってしまう。それでも、能登さんはにっこり笑ってくれた。
「ふふ、気付いたんだ。胸元の刺繍と、コサージュ」
「う、うん」
「あとね、わたしのこのブーケと、ベールの飾りにもイルカが付いてるんだよ」
そう言って指さす方を見ると、確かにさり気無くイルカの飾りが付いている。
「本当だ。めごい」
「ありがとう。最初は、イルカを付けるつもりなんて、なかったんだけど。何か物足りないな、と思ってたときに、古森君と水族館でイルカを見たから。
あれから、わたしもイルカを好きになったんだ。それで、今回のドレスとタキシードにも付けてみたの」
「そうなんだ」
「うん、だから、古森君のおかげでできた服、と言えるかも。それを古森君と一緒に着れて、良かった」
「えっ……」
何だか、サラリと凄いことを言われた気がする。
能登さんは、少し照れ臭そうに微笑むと、ふわりとドレスの裾を翻した。
「さ、そろそろ着替えないとね。でも、その前に、写真撮っても良いかな?」
「う、うん、勿論!」
能登さんの相手役という、夢みたいな時間はもう終わる。
彼女が、本当は誰をイメージしてこの服を作ったかなんて、わからないけど。
今、オラは確かに新郎の衣装を着て、花嫁姿の能登さんの隣にいる。
最高に綺麗な能登さんの笑顔を、一番近くで見ていられる。
ほんの今だけの奇跡かもしれない。
それでも良い。それだけでも、最高のプレゼントだ。
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3年目文化祭ネタ。古森君学校復帰後、すれ違い直前。
藤堂さんの怪我は、勿論嘘ですw
しかし、全体的に、凄く捏造古森君でごめんなさい…。
古森君がファッションショーのモデルとか、ありえないよね! 本当に妄想です。えへっ。
てか、ウェディングドレス&タキシードを縫える女子高生って、何者なんでしょう?(笑)
あ、古森君のクラスが執事喫茶なのは、作者の趣味ですw 書けなかったけど★
執事古森君は、きっと、皆様の心の中に…(嘘/気が向いたらおまけで書くかも)
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