「ハッピー・スクール・フェスティバル」 I
「もうすぐ文化祭だね! 古森君のクラスは、何をするの?」
「オ、オラのクラスは……し、執事喫茶」
「え、執事?」
「う、うん。最近、流行ってるからって……」
オラが学校に行くようになって、二週間近くが経つ。
オラは二年生のクラスに編入したから、三年の能登さんとは、いつも一緒にいられる訳じゃないけど。
こうして一緒に下校したり、学校内の同じ話題で盛り上がれるなんて、引きこもっていた頃では到底考えられなくて、夢みたいだ。
「ねえ、執事喫茶ってことは、古森君も執事の格好で給仕するの?」
「う、うん……。男子は全員、執事の格好ささせられるんだ」
キラキラした目で能登さんに聞かれ、少し赤くなりながら頷く。
「ふふ。見てみたいな、古森君の執事姿。あ、ねえ、執事喫茶ってことは、お客さんのことは『お嬢様』とか『お坊ちゃま』って呼ぶの?」
「んだ。ちょっと、恥ずかしいけんど……」
「えー、楽しそう。絶対行くね」
執事の格好をして、特殊な言葉遣いで話すオラを見られるなんて、凄く恥ずかしい。
でも、能登さんが楽しんでくれるなら、それも良いかな……。
「あの、能登さんは? 三年生は、学年演劇って聞いたけど……」
「ああ、うん、三年生は受験もあるし、クラスの出し物はなくて、学年全員で学年演劇なんだけど。
わたしは、手芸部の方に専念するんだ。作品の展示・販売と、ファッションショーをやるんだよ」
「ファッションショー?」
「うん。是非見に来て欲しいな。今年は、ウェディングドレスがテーマなの」
オラが聞くと、能登さんは嬉しそうに答えた。
何でも、能登さんが副部長を務める手芸部は、文化祭では毎年、お店とファッションショーの二つをやるらしい。
ファッションショーは、年ごとにテーマを決めて、全員自分の作った服を自分で着て出るそうだ。
「ウェディングドレス、自分で縫ったの?」
驚いて尋ねると、少しはにかみながら能登さんが頷く。
「うん。勿論、本物とは生地も違うし、あくまでファッションショー用のだけど。皆、今年は特に気合が入っててね。
三年生を中心に、何人かは、新郎用の衣装も作ったんだよ。わたしもその一人。
男物の服は初めてだから大変だったけど、頑張っちゃった」
「凄い……。じゃあ、その新郎の服も、ショーで着るの?」
「あはは。それは勿論、新郎役の人に着てもらうよ」
「新郎役……。二人で出るなんて、本当の結婚式みたいだべ」
「でしょ?」
明るく言う能登さんに、複雑な気分になる。
「彼氏がいる子達は皆、彼氏に着てもらうし。あとは大体、男友達かな。背の高い女友達に頼む子もいるよ」
「の、能登さんは……?」
女友達だと良いな、と思いながら尋ねると、能登さんは、笑いながら人差し指を唇に当てた。
「ふふ、秘密」
「えっ」
「古森君もきっと知ってると思うよ。学内でも大人気の、スペシャルでサプライズなゲストだからね。当日のお楽しみなんだ」
明らかにウキウキとした口ぶりで言う能登さんに、グサリと胸が痛む。
能登さんの好きな人なのかな……考えたくない。
“学内でも大人気の、スペシャルでサプライズな”人。
きっと、能登さんとお似合いの格好良い人なんだろう。……オラとは大違いだ。
「古森君も、絶対見に来てね、ファッションショー」
「う、うん。勿論」
「ありがとう。嬉しいな」
笑顔で言う能登さんに頷きながら、気付かれないよう、こっそりと溜め息を吐いた。
能登さんのウェディングドレス姿は見たいけど、新郎姿の誰かと並んでいるところは、見たくない。
オラにそんなことを言う資格なんてないのは、解ってるけど。
* * *
「あ……」
昼休み、廊下で能登さんを見かけ、声をかけようとしたけれど、横から現れた人に先を越された。
「お、いたいた美咲! ちょうど良かった!」
真っ赤な髪に、よく通る声。話したことはないけど、名前は知ってる。学内でも目立つ存在のロックな先輩、ハリーさんだ。
「ハリー。どうしたの?」
「文化祭ライブの衣装なんだけどよ、ちょっとお前の意見も聞いとこうと思って」
「うん、良いよ。どんな感じにしたいの?」
楽しそうに話し出す二人に、声をかけるのがためらわれ、気付かれないようその場を離れる。
「あ、美咲先輩だ」
「わー、ハリー先輩も一緒」
二人を見て、ざわつく二年生もいる。
学校に来るようになって、わかったこと。
能登さんは、学校内でも有名で、人気者だ。
二年生でも知らない人はほとんどいないし、男女問わず好かれている。
明るくて、優しくて、気さくな能登さん。
おまけに可愛くて、成績もトップクラスで、手芸部でも全国クラスの賞を取る腕前、と来れば、人気者なのは当たり前だ。
オラなんかがつり合う人じゃない。
学内には、もっと能登さんに似合う人が沢山いる。
例えば、さっきのハリーさん。
他にも、「はね学プリンス」と呼ばれる佐伯さんや、金髪碧眼の留学生、クリスさん。生徒会長の氷上さん。二年生のアイドル、天地君。
皆、格好良くて、人気者で、能登さんとも仲が良い。
……きっと、こういった人が、文化祭でも能登さんの相手役をやるんだろう。
彼女と知り合えただけでも、今まで散々優しくしてもらっただけでも、勿体無いほどのプレゼントなのに、これ以上を望むなんて欲張りすぎる。
それは、わかっているけれど。
能登さんが自分からお願いしたという、ファッションショーの新郎役。
誰なんだろう。
知りたいけど、知りたくない。
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