幸せのカタチ



 ここへ「帰る」日も、今日と明日で最後。
 だって、ボクはあさって、ビタミン牧場のミルクさんと結婚するのだから。
 そうしたら、ミルクさんのあの家が、ボクにとっても「帰る」場所になる……。
 そんなことを思いながら宿屋のドアを開けた途端、
「やあ、クリフ君」
いきなり声をかけられた。
 思わずビクっとして顔を上げると、写真家のカノーさんだった。
「あ、こ、こんばんは!」
「少し話したいことがあるのだが、良いかな?」
 カノーさんはそう言って、一番隅のテーブルをあごでしゃくった。
 ボクはドキドキしながら頷いて、促されるまま席に着いた。
「ビタミン牧場のミルクさんと結婚するそうだね、おめでとう」
カノーさんはそう切り出した。
「あ、ありがとうございます……」
僕は、小さな声でそう答えた。
 やっぱり、慣れない人と話すのは緊張する。一体、カノーさんは、ボクに何の用だっていうんだろう?
「結婚したら、2人で果樹園をやっていくと聞いたんだが、本当かい?」
 カノーさんの問に、ボクはコクンと頷いた。
 するとカノーさんは、しばらく何かを考え込むように沈黙した。
「あのう、それが何か……?」
ボクが恐る恐る尋ねると、カノーさんは黙ったまま、分厚い封筒をボクに渡した。
「何ですか、コレ?」
 受け取ってから、ボクが首をかしげると、
「おせっかいだとは思ったのだがね。まあ、中を見てみたまえ。
……では、今夜はこれで失礼するよ」
そう言って、カノーさんは席を立った。
 ……一体、何なんだろう?
 不思議に思いながら封筒を開けると、出て来たのは十数枚の写真だった。


     *     *     *


「今日も結局、クリフ君に言えなかったなぁ……」
私はベッドに腰掛け、溜め息を吐いた。
 クリフ君との結婚式は、あさって。
「明日には、何が何でも言わなくちゃ」
そう自分に言い聞かせてから、ベッドに入る。
 そして、明かりを消そうとしたとき、トントンとノックの音がした。
 ――こんな時間に、誰だろう?
 慌ててベッドから出て、玄関に向かう。
「はい、どちら様ですか?」
私が尋ねると、返って来たのは、クリフ君の声だった。
「ごめん、こんな時間に。クリフだけど、どうしても言わなきゃいけないことがあって……」
「クリフ君?」
 私がドアを開けるなり、クリフ君はいきなり頭を下げた。
「ごめん!!」
「へ? ど、どうしたの?」
 私がビックリして尋ねると、クリフ君は私に、数枚の写真を手渡した。
 写ってるのは私……それで今日、牧場にカノーさんが来たことを思い出した。
「ああ、これ、今日カノーさんに撮ってもらったやつ……」
 牛の乳搾りや、水撒きをしているところを撮ってもらった。すごく良く撮れてる。
「本当にごめん。君に牧場をやめろなんて、絶対に言っちゃいけなかったのに……。
ミルクさんは、ボクが果樹園の仕事を好きなのと同じくらい、牧場の仕事が大好きなんだよね。
写真の笑顔を見れば、解るもん。本当に、ごめんね」
 クリフ君はそう言うと、唇を噛んだ。
「ううん、クリフ君が謝ることない……」
 私は必死に言葉を探す。言わなくちゃ、今。
「あのね、クリフ君。クリフ君はきっと、言えば解ってくれると思ってた。
プロポーズされてから、ずっと言おうと思ってたの。
こんなに遅くなっちゃって、私こそごめんね、あのね」
 私は大きく息を吸って、言った。
「結婚しても、牧場を続けたい」
「やっぱり、そうだったんだよね。気付いてあげられなくて、ごめん。
牧場の仕事、続けてよ。結婚してからも、ずっと」
「ありがとう、クリフ君は、きっとそう言ってくれるって信じてた」
 私がそう言うと、クリフ君は照れたように微笑んだ。
「お礼を言われることじゃないよ。カノーさんに言われるまで、ミルクさんの幸せを
考えようともしなかったんだから……。それじゃ、お休みなさい」
「カノーさんが?そう……。お休みなさい、また明日」
 私は、最高に幸せな気持ちでクリフ君を見送った。


     *     *     *

 
「カノーさん、いますか?」
 結婚式の前日、ボクとミルクさんは、2人でカノーさんの許を訪れた。
「やあ、キミ達か。ボクに何の用だい?」
「私、結婚後も牧場を続けていくことにしたんです」
ミルクさんが笑顔でそう言うと、カノーさんは眉を上げて、へえ、とだけ言った。
「カノーさんのおかげです、ありがとうございます。
カノーさんが写真を見せてくれなかったら、ボクは取り返しのつかないことをしていたかもしれません」
 ボクが頭を下げると、カノーさんは首を振った。
「何か勘違いしているんじゃないのかい?
ボクはただ、ミルクさんの良い写真が撮れたから、フィアンセ殿にも見せてあげようと思っただけさ」
 ボクとミルクさんは小さく笑って、一緒に封筒を差し出した。
「何だい?」
「結婚式の招待状です。明日で、急なんですけど」
「是非いらして下さい。カノーさんは、ボク達の恩人です」
 招待状を受け取りながら、カノーさんは「まいったなあ」と苦笑した。
「まあ、折角の招待だ。是非行かせてもらうとするがね。
恩人などと呼ぶのは止してくれたまえ」
「ありがとうございます!」
 ホッとしてボク達が帰ろうとすると、そうそう、とカノーさんが呼び止めた。
「今なら心からいえるよ。結婚おめでとう。お幸せに……キミ達は、きっと幸せになれるよ」





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  HMの、「結婚=牧場やめる」というEDがどうしても気に入らなくて。
  そして、カノーさんに写真撮りに来て欲しくて、書きました。
  …写真撮影イベントがあると思ってたよ、本当。

  ※この作品は以前、「トキワ牧場でGO!!」のぴかちゅう様にお贈りしました。










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