「いつかの本当の嘘」



 森林公園でのお花見デート中、古森君の携帯が鳴った。
「あ、メール……杉原からだ」
「ああ、あの杉原君?」
 杉原君というのは、古森君の前の学校での友達だ。
 まだ会ったことはないけれど、話は古森君から沢山聞いているし、写真も見せてもらったことがある。
「どんなメール?」
と、古森君の顔を見ると、何だか複雑な表情で、眉根を寄せている。
「どうしたの?」
「あ、ご、ごめん。ちょっと、驚いてしまって」
 そう言って差し出された携帯の画面を見ると、こんなメールだった。

『件名:ビックリ!
 メッセージ:よう、元気か?
 今日、街中で、お前にそっくりな女の子に会った!
 お前の親戚?もしくは、生き別れた双子の妹?
 とりあえず、写メ撮れたんで送っとく!』
 
 そんなメッセージの後に、女の子の写真が付いていた。
 確かに、顔は古森君そっくり。でも、髪が長くて、身体つきも服装も、明らかに女の子……。

「ええ!?」
 思わず声を挙げて、携帯の画面と古森君を見比べる。
「えっと、地元だし、本当に親戚とか?」
そう尋ねると、古森君も困惑気味に首を振る。
「いや。確かに、向こうに親戚はいるけど、こんなオラに似た女の子はいないべ」
「ええー、でも、他人の空似にしては、そっくり過ぎるよ? 古森君がそのまま女装したみたい……あっ」
 そこまで口にして、ハッと気付いた。
 今日は四月一日だった。
 思わず、プッと吹き出したわたしを、古森君が不思議そうに見詰める。
「あはは、なんだ。古森君、これ、古森君だよ」
わたしがそう言うと、古森君はきょとんとした顔で聞き返す。
「え? どういう意味だ? オラ、こんな格好したことねぇべ」
「そうじゃなくて。合成写真ってこと。古森君の顔写真と、別の女の子の写真を合わせたんじゃないかな。
 杉原君って、確か、パソコンに強いんだよね?」
 杉原君は、前にも一度、一見ウイルスソフトのような添付ファイルを送って来た、と聞いたことがある。
 そんなことができるなら、写真の合成なんて、朝飯前じゃないのかな。
「今日は、エイプリルフールだし」
 わたしの指摘に、古森君はやっと気付いたようで、はーっと溜め息を吐いた。
「……やられたぁ」
「ふふ。すっかり騙されちゃったね」
「杉原には、毎年騙されてたんだ。毎年、気を付けねばって思うんだけど、あいつやり方が巧くて、いっつも騙される……」
「まあまあ。それだけ、古森君が純粋だってことだよ」
 わたしが笑いながらそう言うと、古森君は照れ臭そうに笑った。
「でも、今年は、『騙されねえぞ!』って返せるべ」
「あはは。杉原君、がっかりしちゃうね」
 
     *     *     * 

 古森君の『騙されねえぞ!』というメールへの杉原君の返信は「ちぇっ、自信あったのに、残念」というものだった。
「本当は少し騙されたのにね」と言ったら、「それは秘密だ」って言われちゃった。

「……そうだ、今度は、古森君が杉原君を騙してみたら?」
 しばらくお花見デートを楽しんだ後、ふと思いついて言ってみると、古森君は、うーん、と唸った。
「毎年、オラも仕返ししようとはしたんだけど……いっつも見抜かれるんだ」
「そっかぁ。杉原君は騙す側だもん、簡単には騙されてくれないよね」
 うーん、とわたしも一緒に考え込む。
 杉原君がやったように、写真があると信憑性が増すけど、そんなドッキリに使えるような写真なんて、すぐ用意できるものじゃないし……。
 携帯電話の画像フォルダを開いて、何かないかな、と探す。
 ……あ。これ、良いかも。
「ねえ、古森君、文化祭の時の写真、ある?」
「えっ、うん、確か携帯からも何枚か撮ったはずだけど……」
「わたしの写真も?」
「手芸部のファッションショーの? うん、勿論……って、え?」
 いたずらっぽく笑って見せると、古森君の顔が真っ赤に染まった。
「杉原君、わたしのことは知ってるんだよね?」
「う、うん、この前、彼女だって、写真も送ったから……」
「よし、じゃあ、これで決まりね!」

 そして、杉原君に送ったメールは次の通り。
『件名:報告遅れてごめん
 メッセージ:実は、この前話した彼女と、もうすぐ結婚するんだ。
 式の日取りはまだ決まってないけど、6月の予定だ。お前も来てくれるだろ?
 今日は、式で着るドレスを選んでるんだ。』
  
 これに、文化祭の時の、わたしのウェディングドレス姿の写真を添付する。

 ためらいつつ、古森君がメールの送信ボタンを押した。
「杉原、騙されてくれるかなぁ……」
「どうだろうねぇ。でも、こういう、ありえない話の方が、かえって信じられたりするんだよ?」
 少しドキドキしながら待っていると、古森君の携帯が鳴った。メールではなく、電話だ。
 勿論、杉原君から。
「はい、古森です……」
『ちょっ、お前、マジかよ!? エイプリルフールだよな!?』
 古森君が電話に出るや否や、受話器から大きな声が聞こえて来た。
 わたしと顔を見合わせて小さく笑い、古森くんが「いや…」と続ける。
「ごめん、言うの遅くなって」
『いやいやいや、だって、お前まだ高校生だろ?』
「うん……」
 杉原君の指摘に、古森君が返事に詰まったので、貸して、とわたしが電話に出た。
『おい、古森〜』
「……あの、はじめまして、能登美咲と言います」
 笑いそうになるのをこらえ、なるべくマジメな声を出す。
『えっ、あ、ども、杉原です!』
「どうも、お話はよく、こ…拓君から聞いてます」
『あ、あの、本当なんですか、結婚するって?』
 大分慌ててる、杉原君の声。
「ええ、はい、今も、ドレス選びに来ているところで……。六月の予定ですから、杉原君も、是非来て下さいね」
『あ、ありがとうございます。いや、それは是非……。すんません、ちょっとビックリしてしまって』
 うろたえる杉原君の声に、とうとう古森君が我慢しきれず、プッと吹き出した。
 それを見て、ついわたしも笑ってしまう。
『……あれ、なんか、二人とも笑ってる? ってことは、やっぱり……?』
 古森君に電話を返すと、古森君は笑いながら事実を明かした。
「あはは、騙されたべ」
『うわー、やっぱりエイプリルフールかぁ!いや、オラだって最初はそう思ったけど、写真が付いてたはんで。あの写真は何だったんだ?』
「あれは、文化祭の時のだ」
『うわー、やられた!』
 残念そうな叫び声の後、受話器の向こうからも明るい笑い声が聞こえた。

     *     *     *

「……それじゃ。……うん。お前も今年から大学だべ? けっぱれ」
『おう、お前こそ、受験、けっぱれよ。……そんで、いつか今日の嘘さ、本当にしろよ』
「……うん。わがった」
 古森君と杉原君の電話が終わった。
 
「杉原君、最後に何て言ってたの? 聞こえなかった」
「え? えっと、その、受験生になるから、受験頑張れって」
「そうなんだ。良い友達だね!」
「うん……」
 頷く古森君は、少し照れ臭そうだ。
「……ところで、さっき、杉原と話してたとき、オラのこと、『拓君』って言ったべ?」
「え、う、うん。結婚間近なのに、名字で呼ぶのは変かなーって思って。嫌だった?」
 咄嗟に、いつもの『古森君』から『拓君』に変えちゃったけど……まずかったかな?
「い、嫌な訳ね! そ、その……オラも、名前で呼んでもいが?」
 顔を赤らめて聞く古森君に、つられてわたしも赤くなる。
「……うん、勿論」
「良かった……、えと、美咲、ちゃん」
 まだ呼び慣れない、照れ臭そうな言い方が、何だかくすぐったくて、顔が自然とほころぶ。
「うん。じゃあ、わたしも、拓君って呼ぶね」
 そう言って、ギュッと拓君の手を握ると、同じように握り返された。
「うん。美咲ちゃん」
 二度目の名前呼びは、一度目より、少し力強くて。それでいて、やっぱりくすぐったくて。
 へへっと照れ隠しの笑みを浮かべると、拓君も同じように笑った。





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  エイプリル・フールネタ。
  ……4月1日の23時に思い付き、一気に書いたものです。色々アラが目立ちますが、大目に見てやって下さい。
  (4月5日、ほんの少しだけ手直し。)
  最初は、デイジーが何か嘘を付いて古森君を振り回す、というのも考えたんですが。良い嘘が思い付かなくて。
  ドラマCDに出て来た杉原(漢字、これで良いよね?)は、毎年古森くんを騙してそうだ、と思ったら一気にネタが浮かびました。
  古森君は、嘘を付こうと頑張るけど、「UFOを見た!」とかいうベタな嘘のため、すぐバレてそう。










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