自分の言葉で



(部活終わるまで、もう少しかな…)
 昇降口で能登さんを待っていると、能登さんの友達が話しかけてきた。
「あ、あんた、確か…えーっと、オオモリ君、やったっけ?」
「え、えっと…」
 何度か、能登さんと一緒のときに、会ったことがある人だ。三年生の、元気な人で、名前は確か…。
「えーっと、西本、さん…?」
「あ、覚えててくれたん? おおきに! 嬉しいわー、噂の美少年に名前覚えててもらえてて。オオモリ君!」
 ニコニコと喋りかけてくる西本さんに、少し押されつつ、一応言ってみる。
「あ、あの、オオモリじゃなくて、古森、なんだけど…」
「え、ほんまに!? うわぁ、ごめんなぁ。うち、記憶力弱いねん」
「あ、ううん、気にしないで」
 慌てて謝って来る西本さんに、いや、と首を振る。
 これまで、特に喋ったこともなかったけれど、第一印象通り、元気な人だ。
「そんで、古森君、誰か待っとるん?」
「あ、うん、能登さんを…」
「へえっ、美咲を?」
「う、うん…。家、近いし…」
 まじまじと見つめられ、かぁっと頬が赤くなる。
「えっと、西本さんも、誰か待ってるの?」
「ううん、うちは、課題が授業中に終わらへんかって、残されててん。もう、ほんま、堪忍して欲しいわぁ、英語の鈴木先生。厳しすぎや!
 古森君かて、そう思わへん?」
「えっと、オ…僕のクラスは、高野先生だから、わからないけど…厳しいの?」
「うわー、高ちゃんか、羨ましい! めっちゃ美人で優しいやん。鈴木先生は鬼やでー、ほんま」
ふうっ、と溜め息を吐いてから、西本さんは、ところで、と話を変えた。
「古森君って、東北の人?」
「!」
 ズバリと指摘されて、オラは思わず息を呑む。
「…え、何で…」
「あ、やっぱりそうやろ? 喋るん聞いてて、東北っぽいなーって」
「…えっと、わかってしまう? オ…僕の言葉、変?」
 思わず下を向いてしまったオラに、西本さんは、不思議そうに首をかしげた。
「何でや? 変なことあらへんよ! だって、東北の人なんやろ? 胸張って、東北弁使うたらええやん!」
「え…?」
「うちは大阪人やから、大阪弁喋るで!
…親が転勤族やったから、子供の頃から、全国あちこち引越して、言葉をからかわれたこともあったけどな。
でも、そんなん、からかう方がおかしいんや。ま、そんなん気にせず、ずっとこの調子で喋っとたら、そいつらもすぐ大人しくなったしな。
うちの生まれは大阪で、今でも本籍地は大阪や。両親も大阪人やしな。大阪人であることに、誇りもっとるで!
せやから、あんたも胸張って、自分の言葉で喋りぃ!」
堂々と言い切る西本さんは、何だか格好良く見える。
「う、うん、そうだね…」
「なっ! 大体、古森君、めっちゃええ声しとるやん? それなのに、言葉コンプレックスで喋らないなんて、勿体無いで!」
「え、ええ声…?」
 びっくりして聞き返すと、西本さんは大きく頷いた。
「そや。めっちゃ綺麗でええ声やで。言われたこと、あるやろ?」
「あまりないけど…」
「ほんまに〜? でも、自信もってええで。うちが保障したる!」
「そ、そう…?」 
 こんな風にストレートに褒められることなんて、滅多にないから、顔が熱くなる。

 『キンコーンカンコーン…』

 その時、下校時刻十分前を告げるチャイムが鳴った。能登さんの部活も、もう終わるはずだ。
 西本さんが、腕時計を見て焦ったような声を上げる。
「あっちゃー、もうこんな時間? ほな、うちは帰るわ!」
「え、えっと…もうすぐ、能登さんも来ると思うけど…」
「あはは、そんな、野暮なことせぇへんよ! お邪魔虫は先に帰るわ。また、ゆっくり喋ろうな、古森君!」
 西本さんは、笑って手を振る。
「じゃ、邪魔なんてことは…」
「冗談や。今日は、新作ケーキの発売日やったのに、すっかり忘れててん。まだ残ってるとええんやけど…。ほな、美咲によろしくな!」
 一気に喋ると、西本さんはターっと走って行ってしまった。

「元気な人だぁ…」
 一人残されたオラは、呆然と西本さんの後ろ姿を見送る。
(大阪人の誇り、か…)
 同じ方言でも、大阪弁と津軽弁じゃ、全然違う。例えば、テレビで堂々と関西弁を喋るタレントは沢山いても、東北弁はずっとマイナーで。
 奇異の目で見られるのが嫌で、なるべく訛りを隠すようにして来た。
 でも、やっぱりオラは青森出身で。ずっと津軽弁を喋って育って来た。それは、恥じるようなことじゃない。
「隠すの、やめてみるべか…」
 新しいクラスメートは、皆優しそうな人ばかりだ。三年から急に留年し、編入して来たオラを、戸惑いつつも、少しずつ受け入れてくれている。
 学校に来たときも、新しいクラスに行ったときも、恐れていたようなことは、何もなかった。だから、きっと今度も大丈夫だ。

(津軽弁、堂々と喋ったら良いんだべ。オラは、津軽出身なんだもの…)
 





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  堂々と方言で喋るはるひと、少し言葉コンプレックスのある古森君。
  この2人の絡み、ずっと書いてみたかったんです。
  登校して来た時点で、言葉コンプレックスも克服されてるかなー、とも思いつつ。
  大阪弁で明るく喋るはるひに、自信をもらっていると良いな、という妄想。
  但し、津軽弁・大阪弁共に自信はないです…。間違いがあったらご指摘下さい。
  しかし、古森君一人称は難しいね!










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