「ありがとう」
灯台からの帰り道。
晴れて“恋人”同士になったわたし達は、ゆっくりと道を歩いていた。
初めて繋ぐ古森君の手は暖かくて、それだけで、誤解し合っていた日々のわだかまりが解けていくみたい。
「それじゃ、合格発表は、まだ?」
「うん、本命の一流大は5日。試験の手応えは結構あったんだけど…受験は運もあるし、わからないよね」
進路の話をしながら、わたしが軽く溜め息を吐くと、古森君は少し焦ったように励ました。
「だーいじょうぶだぁ。能登さんなら、絶対合格だべ」
「そうかなぁ?」
「んだ。…オラも、来年、一緒に一流大行けるよう、頑張らねば」
ギュッと、握った手に力が込められる。
「うん、でも、無理に一流大を志望校にしなくても良いんだよ? 大学は一生を左右するんだし、自分にあった大学を選んだ方が」
少し心配になってわたしが言うと、古森君は笑って首を振る。
「うん、大丈夫、ちゃんと考えてら。一流大は、海洋生物学の専攻があるべ? オラ、だから一流大に行きてぇんだ」
「そうなんだ。うん、頑張って! 古森君なら、大丈夫だよ!」
片手でガッツポーズを作るわたしに古森君は微笑み、
「ありがとう」
と言った。
「一年、待たせてしまうけど…絶対、能登さんと同じ一流大に行ってみせるから」
「まだ、わたしが一流大に行けるかどうかも、わからないけどね。でも、同じ大学じゃなくても良いよ。
一年の差なんて、長い目で見たら、きっと全然大したことないよ!」
「…ありがとう」
古森君がまたそう言うので、わたしは思わず笑ってしまった。
「ふふ、また言った」
「え?」
「『ありがとう』って、今日、すっごく沢山言ってるよね?」
わたしが指摘すると、古森君は少し驚いたような顔をした。
灯台でも、その後一緒に夕日を見た海辺でも。
ここまでの帰り道でも、古森君は何度も『ありがとう』と口にした。
「でも、まだ足んね」
ポツリ、と古森君が言う。
「え?」
聞き返すと、古森君は足を止め、真剣な表情でわたしに向き直った。
「だって、本当は、もっと早くから。初めて会ったあの日、あの教室で助けてくれた時も。毎朝、迎えに来てくれたときも。帰りに寄ってくれたときも。
いつも、君に『ありがとう』って、言いたかったんだ。言わなくちゃ、いけなかったんだ。なのに、ずっと、言えなくて…」
「古森君…」
「だから、どれだけ言っても、まだ全然足りてねぇんだ」
「そうだったんだ…」
嬉しくて、ほんのり頬が赤くなる。
「そんな風に思っててくれて、嬉しいな。…ありがとう」
「せば、『ありがとう』は、こっちのセリフだべ」
照れたように古森君が言って、わたし達は同時に吹き出した。
ありがとう、古森君。
これから、ずっと、一緒にね。
――助けてくれて。
迎えに来てくれて。
いつも見ててくれて。
そばにいてくれて。
好きだって言ってくれて。
ありがとう。
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告白後、古森君は何度も「ありがとう」と言いそうだな〜、という妄想。
…古森君の津軽弁は多分色々間違っています。すみません。
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